このワイナリーはコルマールの中心地からタクシーで西南西に15分ほどの場所にあります。
(できればワイナリーへの移動はワイン専門のガイドにお願いする方が無難かと思います。)
なぜこのワイナリーに行ったのか??
どうやって予約するの??
このワイナリーに訪れようと思ったきっかけは、デキャンター誌(ネット版)でここのピノ・ノワールが高評価を受けていたことでした。そのとき紹介されていたのは村名クラスのワインでした。
現地に行けばそれ以上のキュベも試飲できるのではないかと考えて実際に行ってみました。
メールで連絡を取り合う段階から親切さが伝わってくる類い稀なワイナリーです。テイスティングの予約に関してはホームページから連絡することができます。
1月末ごろのアルザスとしてはそれほど寒くない日の夕方に訪問しました。
いよいよ訪問、1軒目。
出迎えてくれたのは Adrien Schoenheitz 氏です。よくネット上でお写真を拝見していた方です。すんごく紳士的な方です。何から何まで優しい。
こちらが(失礼ながらも)あまり時間がないことと特にピノ・ノワールに興味があると伝えると、すぐさま赤ワインを準備して頂けました。
最初にドメーヌの地下にあるワイナリーの醸造設備を見ながら醸造の要点を説明して頂く。次に赤ワインのテイスティングが始まる。
テイスティングに挑む前に復習すべき情報が…
味わいに話を進める前に少しだけアルザスのピノ・ノワールについて書きます。
ピノ・ノワールはアルザスのワインを語る上で重要な赤品種です。地味かもしれませんが…
2017年時点で栽培面積は1,667ha(全体の11%)(*1)、生産量は106,927hl(12%)(*2)、1haあたりの生産量は約64hl/haです。
アルザスのピノ・ノワールと聞くと地味な印象ですが、栽培面積は高貴品種の一つであるGewurztraminerとほとんど同じです。
ピノ・ノワールで有名な生産者はこのグラン・クリュを名乗ることができない赤ぶどう品種にも惜しみなく南向き斜面を振り分けていることが多かったです。
私の感覚ではブルゴーニュの同クラスのものと比較するとやや果実の完熟度が高い味わいのワインが多く、それに従いタンニンの性質もまろやかなものが多いと思います。果実味との均衡を保てるだけの十分な酸味があるものの、酸味の性質は全体的に穏やかかと思います。
ワインを試飲させて頂く
最初はPinot Noir 2018 Alsace、次に村名クラスのSaint Grégoire 2017と進みます。どちらについても完熟した甘やかな赤果実の味わいが強く、タンニンは控えめで飲みやすいワインに仕上がっています。すぐに飲むのであればとくに前者のワインをお勧めします。豊満な熟れた果実味が満ちていてタンニンや苦味は非常に控えめです。それでいて適度な酸味があるため煮詰めたジャムのような完熟感は感じられません。Saint Gregoire 2017になると軽いアクセントとなるスパイスや浅煎りのモカコーヒーのような雰囲気が出てきます。これらのワインは比較的ドメーヌの中では求めやすい価格帯の部類になるのですが、味わいが洗礼されておりこの時点で既に好印象を抱きました。ここまではワインの色味はいわゆる一般的なピノ・ノワールのものであり浅い柘榴色です。
そしてとっておきの熟成の可能性を秘めているのがフラグシップである単一畑から収穫されたぶどうから作られるHerrenrebenとLinsenbergです。個人的にはHerrenrebenに惚れ込んでしまいました。どちらの畑も標高が高くLinsenbergが350-450mでHerrenrebenは360-500mに位置しています。
畑の個性とそれに対応する栽培方針
Herrenrebenは基本的に花崗岩土壌の畑でありその土質は水分を保持する力も栄養分も少ないのだそうだ。Adrien氏によると基本的にこのような土壌からできるワインは野性味溢れる荒々しいスタイルになりがちだという。同時に刺激的なスパイス香と強いタンニンが現れる傾向があるとのこと。彼は水や養分等のぶどうが熟すために必要な成分が少ないのだから、その分収量を減らすことで収量とぶどうの完熟度のバランスを取ることが重要だと考えている。結果的にこの畑の収量は30hl/haに抑えられている。さらにこの畑には樹齢50年ほどの木が残っており、それらにはとりわけ小粒なぶどうがなり、これが出来上がったワインの凝縮感につながる。畑は南向き斜面の上にあるため果実が熟すために必要な熱量を確保できる。アルザスで最高クラスの標高とピノ品種の成熟に必要な熱量があるため、そこから出来上がるワインにはふくよかな果実味と全体の味わいを引き締めるような酸味がバランス良く存在することになる。
結局、そのワインはどういうものなのか?
筆者は定期的にワイン好きのためのとあるブラインドテイスティングの会に参加しております。通常は6種類程度が給されることになってているのですが、今回はそのうちの一つとしてHerrenreben 2017を出して頂いた。そのため筆者もブラインドの状態でテイスティングすることになりました。正直に言うと抜栓後すぐに飲むべきワインではありません。あまりにもワイナリーで飲んだ時の印象と違うためすぐにどれかわからないほど混乱しました。今の段階で飲むのであれば少なくともチューリップ型のグラスを使って2-3時間ほどかけてゆっくりと楽しむべきかと思います。お時間がある時や特別な機会の時に飲むことをお勧め致します。好みにもよりますが5年程度熟成しても全く問題ないと思います。
テイスティングコメント
【外観】
色味は明確に黒みをびたざくろ色(あくまで個人の見解です!試験の際に使用されても結果は保証しかねます)。
少しだけ透明性がある。個人的にはクリュ・ボジョレ(特にAC Morgon)のスタイルに近いような気がする。
【香り】
抜栓してから数分後、香りは非常に閉じている。特に最初にスワリングせずに嗅ぐと果実味よりも万年筆のインキや鉄を連想させる香りがとれる。少し遅れて果実味(ブルーベリー、桑の実)、中煎りのスペシャリティーコーヒーやルイボス茶、クローブのような香りが現れる。穏やかな性質の乾燥ハーブ(バーム、タイム)もある。時間が経つほどたくさんの要素が際立ってきて明らかに複雑性に富むワインだとわかる。さきほどのインクはアッサムティーに変化してルイボスの香りはドライポプリのように綺麗に生まれ変わる。抜栓後2時間後には非常に厚みがある芳香を放つ。2時間超の間、仲間とグラスの中で起こる変化を語ることができるという贅沢な経験をもたらしてくれた。大変な収穫があったと思う。
【味わい】
果実味の熟れ具合と酸味、タンニンの量と質のバランスが素晴らしい。これらのどの要素も行き過ぎた感じやぎこちなさがなく、綺麗にまとまっているのが芸術的ですらある。アルコールは低くないのであろうが、味わいの深さと複雑さのためか気にならない。それでもタンニンの量はピノ・ノワールと答えることに戸惑うくらいある。 その性質も熟れきっておらず多少のアクセントになるだけの硬さが感じられる。少なくとも個人的には悪印象ではない。間違いなく熟成させるべきワインである。
クリュ・ボジョレの名前を出し手前申し上げると、こちらの方がタンニンの質が穏やかで丸みがある。味わいもゴツゴツした強靭なタイプというよりは深みがありながらも柔らかいといった印象です
Adrien氏は彼が作るワインはどんなものであるべきか明確な理想像を持っています。私にはその理想がワインにしっかりと反映されているように思います。具体的に言えば果実味と新鮮さのバランスを保つこと、そして過度なタンニンと還元に由来する香りを生じさせないことが重要とのことです。そのために醸造する上でもっとも重要なことは過度に抽出しないこと。醸造方法について詳しくは触れませんが、ご興味ある方はぜひお立ち寄りください。Adrien氏は歴史にも詳しく、アルザスとフランスの歴史についても非常に興味を掻き立てられる知性溢れる話をしていただけました。アカシアと桑でできた樽を使って樽熟成させたリースリング(Audace)も興味を惹きます。きっと新たな発見があると思います。
【参照】
1. Typologie du vignoble alsacien. Conseil Interprofessionnel Des Vins d’Alsace.
Accessed on 23 Feb 2020.
2. Production 2017 du vignoble alsacien. Conseil Interprofessionnel Des Vins d’Alsace.
Accessed on 23 Feb 2020.