そこで少し物思いに耽ったことを書き綴ります。ご興味があれば物好きの駄文程度に読み飛ばしていただければ幸いです。
(後半部分は南アフリカのCinsaultに的を絞った情報になっております。)
本日テイスティングした赤ワインは南アフリカの西ケープ州の北端に位置する産地で作られたものでした。
【テイスティングしたワイン】
Kruger Family Wines, Cinsault Old Vines 2017, Piekenierskloof Valley.
【生産地について】
Piekenierskloof Valleyとありますが、正直なところ私程度の人間ではどの辺りの産地なのかピンときませんでした。ちなみに末尾の’kloof’はAfrikaansの言葉で渓谷を意味します。
この生産地(Piekenierskloof Valley)は西ケープ州の北部にあるCitrusdal Valley Districtの中に位置しています。このCirtsusdal Valley DistrictはOlifants River Regionと呼ばれる地域の一部となります。ここで南アフリカの知識が生きるのですが、南アフリカのワイン産地はUnit、Region、District、Wardの順で区画されています。Piekenierskloof Valleyはその中でも標高が高いとされる地域で、このワインは標高700mほどの葡萄畑でとれたブドウが原料となっています。
【栽培条件について】
Cinsaultは乾燥した暑い地域に耐性があるとされる南仏地方で栽培面積が多い品種です。また収穫量が多くなりがちでその際には特に個性に乏しいワインができることになります。そういった場合は他のさらに個性がある品種から出来たワインとのブレンドに使われてきた背景があります。単体では色が淡い、軽めの味わいのワインになることが多い傾向があります。南アフリカのCinsaultの特徴として、古くから栽培されていたため今でも古木が多く残っている点があげられます。今回のワインも樹齢64年とされる古木からとれた果実が原料として使われており、こういった場合には一般的に樹齢の若い通常の木から実をとった場合よりも凝縮みや複雑さが発現するとされます。Old Vine Projectとは南アフリカに存在する忘れられた古木の葡萄畑を探し出し、生産者に紹介する試みです。Eben Sadieが深く関わっていることで有名です。今回のワインもこのOld Vine Projectによって発掘された畑がステレンボッシュに拠点をおいていた生産者の手に渡り、このワインが出来るに至りました。ブドウは樹齢が高くなると自然と収穫できる量が低下していきますが、Cinsaulttはこのように収量が低く制限された場合に優れた個性的なワインを生むとされる品種です。出来上がるワインの特徴としてはやはり軽やかな味わいの中にも豊富な果実味と繊細さを兼ね備えたものが多い印象です。
【醸造方法について】
初めてにかつてCinsaultに適用された一般的な醸造方法の特徴について確認します。Cinsalutは品種の個性として色の淡いワインになる傾向があります。この色が淡いという特徴のため、醸造では十分な色素を抽出することが難しいく必然的に発酵中にパンチング・ダウンといった渋みの抽出が多くなる手法が取り入れられる事になります。これが上手くコントロールされない場合、バランスが悪いワインが出来上がってしまうことにもつながります。今ではさほどでもありませんが、かつてはワインの世界の流行の問題から色が濃いワインが非常に好まれる時代がありました。こういう時代にはそもそも色が淡くなり易いCinsaultには不利な状況となります。Eadsはこう言った背景のためにCinsaultは他の品種とのブレンド用の品種にとどまることが多かったと指摘しています。
次に今回のワインの製造に関する技術的な点を確認します。今回のワインはブドウ全体の25%を全房を使用して発酵を行なっています。発酵前の低温浸漬の期間を3日間設け、発酵は14日間で終了しています。その後4日の間果皮とワインを接触させ、その後6ヶ月間は使用済みの小さいオーク樽で熟成させます。基本的にできるだけそのままの味わいを残すような醸造方法を取っていることがうかがえます。おそらくですが、重力任せた清澄や軽めの濾過処理などが実施されている可能性があるように思います。
【テイスティングした際の感想】
色合いは赤ワインとしては特異な程色が淡いのですが、ロゼほどではなく典型的なブルゴーニュのPinot Noirと同等程度です。
味わいは酸が綺麗に残っており、アルコール度数が低めなこともあって近年では珍しくなった酸とアルコールのバランスが取れています。辛口な味わいで適当なDiscriptorとしてはCramberry、Raspberry、Brambleのような酸味が強い赤果実と若干の葉っぱの要素があります。甘やかなLiquoriceと乾燥されたHibiscusのような花の香りも存在しています。オークのニュアンスは全く嫌らしくなく、上手く調和していて全体の雰囲気に溶け込んでいます。おそらく多少の青さは全房発酵に起因する要因かと思われますが、個人的にはむしろフレッシュな印象を強める好ましい特徴になっているかと思います。一方で全房発酵を行った場合にあり得る副作用である酸の低下や凝縮感の低下というものは感じられません。全体として非常に上手く作られている好印象のワインでした。ただ、タンニンは中程度と高くないので、度数もタンニンも強いパワフルなワインを飲みたい場合であれば、あえて選ぶワインではないかもしれません。
Cinsaulという品種はまだまだ知名度も人気も低い品種です。冒頭でも触れた通り、収量が多い品種であり過去には質より量を確保するための品種として利用されてきた背景があります。熱や渇水のストレスにさらされた場合でも耐性があるとされます。南アフリカでは結果的に灌漑されていない場所でも長年生きながらえる葡萄畑が残ったため、現在のように古木が多く残っている状況に繋がりました。これと同じような状況が見られるのがチリのイタタ地域です。こちらは南アフリカのCinsaultよりさらに知名度が低いように思うのですが、この辺りの産地もまだ広く一般に知られてはいないものの潜在力があるという意味で面白い産地かもしれません。レバノンのChateaux Musarも収穫量を低く制限することで高品質なワインを作ることで有名です。Cinsaultという品種もまだまだこれから本当の個性を実力を発揮していく品種なのだろうと思います。
1.
Kruger Family Wines Old Vines Cinsault. The Old Vine Project. [online] Available at http://oldvineproject.co.za
Accessed on 8 August 2018.
Edes, C.(2017). Kruger Familly Wines Old Vines Cinsault 2017. Winemag.co.za. [online] Available at https://winemag.co.za
Accessed on 9 August 2018.
3.
Eads, L.(2016). Cinsault Tipped as ‘South Africa’s Malbec’. The Drink Business. [online] Available at https://www.thedrinksbusiness.com
Accessed on 9 August 2018.
4.
Clarke, O.(2015). Grapes & Wines: A Comprehensive Guide to Varieties and Flavours. London: Pavillon Books Company Limited.
5.
Cooper, A. MW.(2018). Cinsault: It’s not just a backing singer. Decanter. [online] Available at https://www.decanter.com
Accessed on 10 August 2018.
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