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2020年2月25日火曜日

アルザス ワインの旅 1軒目 (Schoenheitz)

ディプロマを取得してから始めて訪れることとなった記念すべきワイナリーがSchoenheitzです。

このワイナリーはコルマールの中心地からタクシーで西南西に15分ほどの場所にあります。
(できればワイナリーへの移動はワイン専門のガイドにお願いする方が無難かと思います。)


なぜこのワイナリーに行ったのか?? 
どうやって予約するの??
このワイナリーに訪れようと思ったきっかけは、デキャンター誌(ネット版)でここのピノ・ノワールが高評価を受けていたことでした。そのとき紹介されていたのは村名クラスのワインでした。

現地に行けばそれ以上のキュベも試飲できるのではないかと考えて実際に行ってみました。

メールで連絡を取り合う段階から親切さが伝わってくる類い稀なワイナリーです。テイスティングの予約に関してはホームページから連絡することができます。

1月末ごろのアルザスとしてはそれほど寒くない日の夕方に訪問しました。


いよいよ訪問、1軒目。
出迎えてくれたのは Adrien Schoenheitz 氏です。よくネット上でお写真を拝見していた方です。すんごく紳士的な方です。何から何まで優しい。

こちらが(失礼ながらも)あまり時間がないことと特にピノ・ノワールに興味があると伝えると、すぐさま赤ワインを準備して頂けました。

最初にドメーヌの地下にあるワイナリーの醸造設備を見ながら醸造の要点を説明して頂く。次に赤ワインのテイスティングが始まる。


テイスティングに挑む前に復習すべき情報が…
味わいに話を進める前に少しだけアルザスのピノ・ノワールについて書きます。
ピノ・ノワールはアルザスのワインを語る上で重要な赤品種です。地味かもしれませんが…
2017年時点で栽培面積は1,667ha(全体の11%)(*1)、生産量は106,927hl12%)(*2)、1haあたりの生産量は約64hl/haです。
アルザスのピノ・ノワールと聞くと地味な印象ですが、栽培面積は高貴品種の一つであるGewurztraminerとほとんど同じです。
ピノ・ノワールで有名な生産者はこのグラン・クリュを名乗ることができない赤ぶどう品種にも惜しみなく南向き斜面を振り分けていることが多かったです。
私の感覚ではブルゴーニュの同クラスのものと比較するとやや果実の完熟度が高い味わいのワインが多く、それに従いタンニンの性質もまろやかなものが多いと思います。果実味との均衡を保てるだけの十分な酸味があるものの、酸味の性質は全体的に穏やかかと思います。


ワインを試飲させて頂く
最初はPinot Noir 2018 Alsace、次に村名クラスのSaint Grégoire 2017と進みます。どちらについても完熟した甘やかな赤果実の味わいが強く、タンニンは控えめで飲みやすいワインに仕上がっています。すぐに飲むのであればとくに前者のワインをお勧めします。豊満な熟れた果実味が満ちていてタンニンや苦味は非常に控えめです。それでいて適度な酸味があるため煮詰めたジャムのような完熟感は感じられません。Saint Gregoire 2017になると軽いアクセントとなるスパイスや浅煎りのモカコーヒーのような雰囲気が出てきます。これらのワインは比較的ドメーヌの中では求めやすい価格帯の部類になるのですが、味わいが洗礼されておりこの時点で既に好印象を抱きました。ここまではワインの色味はいわゆる一般的なピノ・ノワールのものであり浅い柘榴色です。
そしてとっておきの熟成の可能性を秘めているのがフラグシップである単一畑から収穫されたぶどうから作られるHerrenrebenLinsenbergです。個人的にはHerrenrebenに惚れ込んでしまいました。どちらの畑も標高が高くLinsenbergが350-450mでHerrenrebenは360-500mに位置しています。


テイスティング後の風景

畑の個性とそれに対応する栽培方針
Herrenrebenは基本的に花崗岩土壌の畑でありその土質は水分を保持する力も栄養分も少ないのだそうだ。Adrien氏によると基本的にこのような土壌からできるワインは野性味溢れる荒々しいスタイルになりがちだという。同時に刺激的なスパイス香と強いタンニンが現れる傾向があるとのこと。彼は水や養分等のぶどうが熟すために必要な成分が少ないのだから、その分収量を減らすことで収量とぶどうの完熟度のバランスを取ることが重要だと考えている。結果的にこの畑の収量は30hl/haに抑えられている。さらにこの畑には樹齢50年ほどの木が残っており、それらにはとりわけ小粒なぶどうがなり、これが出来上がったワインの凝縮感につながる。畑は南向き斜面の上にあるため果実が熟すために必要な熱量を確保できる。アルザスで最高クラスの標高とピノ品種の成熟に必要な熱量があるため、そこから出来上がるワインにはふくよかな果実味と全体の味わいを引き締めるような酸味がバランス良く存在することになる。


結局、そのワインはどういうものなのか?
筆者は定期的にワイン好きのためのとあるブラインドテイスティングの会に参加しております。通常は6種類程度が給されることになってているのですが、今回はそのうちの一つとしてHerrenreben 2017を出して頂いた。そのため筆者もブラインドの状態でテイスティングすることになりました。正直に言うと抜栓後すぐに飲むべきワインではありません。あまりにもワイナリーで飲んだ時の印象と違うためすぐにどれかわからないほど混乱しました。今の段階で飲むのであれば少なくともチューリップ型のグラスを使って2-3時間ほどかけてゆっくりと楽しむべきかと思います。お時間がある時や特別な機会の時に飲むことをお勧め致します。好みにもよりますが5年程度熟成しても全く問題ないと思います。


テイスティングコメント

【外観】
色味は明確に黒みをびたざくろ色(あくまで個人の見解です!試験の際に使用されても結果は保証しかねます)。
少しだけ透明性がある。個人的にはクリュ・ボジョレ(特にAC Morgon)のスタイルに近いような気がする。

【香り】
抜栓してから数分後、香りは非常に閉じている。特に最初にスワリングせずに嗅ぐと果実味よりも万年筆のインキや鉄を連想させる香りがとれる。少し遅れて果実味(ブルーベリー、桑の実)、中煎りのスペシャリティーコーヒーやルイボス茶、クローブのような香りが現れる。穏やかな性質の乾燥ハーブ(バーム、タイム)もある。時間が経つほどたくさんの要素が際立ってきて明らかに複雑性に富むワインだとわかる。さきほどのインクはアッサムティーに変化してルイボスの香りはドライポプリのように綺麗に生まれ変わる。抜栓後2時間後には非常に厚みがある芳香を放つ。2時間超の間、仲間とグラスの中で起こる変化を語ることができるという贅沢な経験をもたらしてくれた。大変な収穫があったと思う。

【味わい】
果実味の熟れ具合と酸味、タンニンの量と質のバランスが素晴らしい。これらのどの要素も行き過ぎた感じやぎこちなさがなく、綺麗にまとまっているのが芸術的ですらある。アルコールは低くないのであろうが、味わいの深さと複雑さのためか気にならない。それでもタンニンの量はピノ・ノワールと答えることに戸惑うくらいある。 その性質も熟れきっておらず多少のアクセントになるだけの硬さが感じられる。少なくとも個人的には悪印象ではない。間違いなく熟成させるべきワインである。
クリュ・ボジョレの名前を出し手前申し上げると、こちらの方がタンニンの質が穏やかで丸みがある。味わいもゴツゴツした強靭なタイプというよりは深みがありながらも柔らかいといった印象です

帰国後にHerrenreben 2017年を抜栓した際の様子


Adrien氏は彼が作るワインはどんなものであるべきか明確な理想像を持っています。私にはその理想がワインにしっかりと反映されているように思います。具体的に言えば果実味と新鮮さのバランスを保つこと、そして過度なタンニンと還元に由来する香りを生じさせないことが重要とのことです。そのために醸造する上でもっとも重要なことは過度に抽出しないこと。醸造方法について詳しくは触れませんが、ご興味ある方はぜひお立ち寄りください。Adrien氏は歴史にも詳しく、アルザスとフランスの歴史についても非常に興味を掻き立てられる知性溢れる話をしていただけました。アカシアと桑でできた樽を使って樽熟成させたリースリング(Audace)も興味を惹きます。きっと新たな発見があると思います。


リースリングの特別キュベ(Audace)用の木樽


【参照】
1. Typologie du vignoble alsacien. Conseil Interprofessionnel Des Vins d’Alsace.
Accessed on 23 Feb 2020.

2. Production 2017 du vignoble alsacien. Conseil Interprofessionnel Des Vins d’Alsace. 
Accessed on 23 Feb 2020.


2018年8月9日木曜日

Kruger Old Vines Cinsault 2017

南アフリカの個性的な赤ワインをテイスティングする機会がありました。
そこで少し物思いに耽ったことを書き綴ります。ご興味があれば物好きの駄文程度に読み飛ばしていただければ幸いです。
(後半部分は南アフリカのCinsaultに的を絞った情報になっております。)

本日テイスティングした赤ワインは南アフリカの西ケープ州の北端に位置する産地で作られたものでした。


【テイスティングしたワイン】
Kruger Family Wines, Cinsault Old Vines 2017, Piekenierskloof Valley.

【生産地について】
Piekenierskloof Valleyとありますが、正直なところ私程度の人間ではどの辺りの産地なのかピンときませんでした。ちなみに末尾の’kloof’はAfrikaansの言葉で渓谷を意味します。
この生産地(Piekenierskloof Valley)は西ケープ州の北部にあるCitrusdal Valley Districtの中に位置しています。このCirtsusdal Valley DistrictはOlifants River Regionと呼ばれる地域の一部となります。ここで南アフリカの知識が生きるのですが、南アフリカのワイン産地はUnit、Region、District、Wardの順で区画されています。Piekenierskloof Valleyはその中でも標高が高いとされる地域で、このワインは標高700mほどの葡萄畑でとれたブドウが原料となっています。

【栽培条件について】
Cinsaultは乾燥した暑い地域に耐性があるとされる南仏地方で栽培面積が多い品種です。また収穫量が多くなりがちでその際には特に個性に乏しいワインができることになります。そういった場合は他のさらに個性がある品種から出来たワインとのブレンドに使われてきた背景があります。単体では色が淡い、軽めの味わいのワインになることが多い傾向があります。南アフリカのCinsaultの特徴として、古くから栽培されていたため今でも古木が多く残っている点があげられます。今回のワインも樹齢64年とされる古木からとれた果実が原料として使われており、こういった場合には一般的に樹齢の若い通常の木から実をとった場合よりも凝縮みや複雑さが発現するとされます。Old Vine Projectとは南アフリカに存在する忘れられた古木の葡萄畑を探し出し、生産者に紹介する試みです。Eben Sadieが深く関わっていることで有名です。今回のワインもこのOld Vine Projectによって発掘された畑がステレンボッシュに拠点をおいていた生産者の手に渡り、このワインが出来るに至りました。ブドウは樹齢が高くなると自然と収穫できる量が低下していきますが、Cinsaulttはこのように収量が低く制限された場合に優れた個性的なワインを生むとされる品種です。出来上がるワインの特徴としてはやはり軽やかな味わいの中にも豊富な果実味と繊細さを兼ね備えたものが多い印象です。

【醸造方法について】
初めてにかつてCinsaultに適用された一般的な醸造方法の特徴について確認します。Cinsalutは品種の個性として色の淡いワインになる傾向があります。この色が淡いという特徴のため、醸造では十分な色素を抽出することが難しいく必然的に発酵中にパンチング・ダウンといった渋みの抽出が多くなる手法が取り入れられる事になります。これが上手くコントロールされない場合、バランスが悪いワインが出来上がってしまうことにもつながります。今ではさほどでもありませんが、かつてはワインの世界の流行の問題から色が濃いワインが非常に好まれる時代がありました。こういう時代にはそもそも色が淡くなり易いCinsaultには不利な状況となります。Eadsはこう言った背景のためにCinsaultは他の品種とのブレンド用の品種にとどまることが多かったと指摘しています。
次に今回のワインの製造に関する技術的な点を確認します。今回のワインはブドウ全体の25%を全房を使用して発酵を行なっています。発酵前の低温浸漬の期間を3日間設け、発酵は14日間で終了しています。その後4日の間果皮とワインを接触させ、その後6ヶ月間は使用済みの小さいオーク樽で熟成させます。基本的にできるだけそのままの味わいを残すような醸造方法を取っていることがうかがえます。おそらくですが、重力任せた清澄や軽めの濾過処理などが実施されている可能性があるように思います。

【テイスティングした際の感想】
色合いは赤ワインとしては特異な程色が淡いのですが、ロゼほどではなく典型的なブルゴーニュのPinot Noirと同等程度です。
味わいは酸が綺麗に残っており、アルコール度数が低めなこともあって近年では珍しくなった酸とアルコールのバランスが取れています。辛口な味わいで適当なDiscriptorとしてはCramberry、Raspberry、Brambleのような酸味が強い赤果実と若干の葉っぱの要素があります。甘やかなLiquoriceと乾燥されたHibiscusのような花の香りも存在しています。オークのニュアンスは全く嫌らしくなく、上手く調和していて全体の雰囲気に溶け込んでいます。おそらく多少の青さは全房発酵に起因する要因かと思われますが、個人的にはむしろフレッシュな印象を強める好ましい特徴になっているかと思います。一方で全房発酵を行った場合にあり得る副作用である酸の低下や凝縮感の低下というものは感じられません。全体として非常に上手く作られている好印象のワインでした。ただ、タンニンは中程度と高くないので、度数もタンニンも強いパワフルなワインを飲みたい場合であれば、あえて選ぶワインではないかもしれません。

Cinsaulという品種はまだまだ知名度も人気も低い品種です。冒頭でも触れた通り、収量が多い品種であり過去には質より量を確保するための品種として利用されてきた背景があります。熱や渇水のストレスにさらされた場合でも耐性があるとされます。南アフリカでは結果的に灌漑されていない場所でも長年生きながらえる葡萄畑が残ったため、現在のように古木が多く残っている状況に繋がりました。これと同じような状況が見られるのがチリのイタタ地域です。こちらは南アフリカのCinsaultよりさらに知名度が低いように思うのですが、この辺りの産地もまだ広く一般に知られてはいないものの潜在力があるという意味で面白い産地かもしれません。レバノンのChateaux Musarも収穫量を低く制限することで高品質なワインを作ることで有名です。Cinsaultという品種もまだまだこれから本当の個性を実力を発揮していく品種なのだろうと思います。

1.
Kruger Family Wines Old Vines Cinsault. The Old Vine Project. [online] Available at http://oldvineproject.co.za
Accessed on 8 August 2018.

2.
Edes, C.(2017). Kruger Familly Wines Old Vines Cinsault 2017. Winemag.co.za. [online] Available at https://winemag.co.za
Accessed on 9 August 2018.

3.
Eads, L.(2016). Cinsault Tipped as ‘South Africa’s Malbec’. The Drink Business. [online] Available at https://www.thedrinksbusiness.com
Accessed on 9 August 2018.

4.
Clarke, O.(2015). Grapes & Wines: A Comprehensive Guide to Varieties and Flavours. London: Pavillon Books Company Limited.

5.
Cooper, A. MW.(2018). Cinsault: It’s not just a backing singer. Decanter. [online] Available at https://www.decanter.com
Accessed on 10 August 2018.

2018年8月5日日曜日

発酵温度について2

半年ほど前にワインの発酵温度について書いたこと(こちら)がありました。前回はGewürztraminerの発酵温度に関して限定して思ういつき程度に書いたのですが、今回はもう少し対象範囲を広げて真面目に書いてみます。特に考えたいテーマは旧世界と新世界の場合の白ワインの発酵温度とその違いによって生じるワインの性格の変化についてです。

まず、Companion to Wineの関連項目を確認して旧世界と新世界では発酵のさせ方がだいぶ違うということを確認します。新世界における白ワインの発酵温度は12-17°Cが一般的であり、これによって果実味が強いバランスが取れた色の淡いワインが生み出されるとのことです。かつ、この12-17°Cの発酵温度はワイン作りを商業的に成り立たせるためにも大切です。というのは新世界では一般的に1年のうちに発酵槽を複数回使うことが多いため、1回の発酵は比較的短い期間で完了する必要があります。そのためこの12-17°Cというのは発酵がある程度速く進み、出来上がるワインの風味も好ましいものになる範囲であると考えられます。ちなみに、このままの温度で保管しても温度が低いためマロラクティック発酵には適温ではありません。もし必要な場合は別途温度をあげる作業が必要になります。これと対照的なのはブルゴーニュにおける白ワインの発酵方法です。ここでは木樽に果汁を入れた後、アルコール発酵が済んだ後もワインは樽の中で保管されます。そして翌年の春や遅い場合には初夏までにマロラクティック発酵が完了します。必然的にひとつの発酵槽は一年に1度しか使われません。そして高い確率でマロラクティック発酵が行われることになります。またここではアルコール発酵の発酵温度は新世界の場合より高くなる傾向があります。温度が高いといっても酵母が死滅するほど高くなるほど温度が上がることはあまりありません。というのはブルゴーニュで一般的な樽が収納できる容積はは228Lであり、新世界で一般的に使用される大型のステンレスタンクと比べると熱が放出される効率の指標となる液体の表面積と容積の比率が高いからです。そのためブルゴーニュの発酵方法を取る場合には特別に発酵温度を下げるような仕組みは必ずしも必要ではないのです。もう一つ発酵槽の材質について考えた場合、木樽は液体に対しては不透性ですが、気体に対しては(分子の大きや特性にもよると思われますが)透過性があります。ステンレスや内側に樹脂でコーティングを施したタンクはどちらに対しても基本的に不透性です。特に小型の木樽の場合はワインが空気に触れている表面積が大規模なタンクで発酵・保管した場合よりも大きくなります。ブルゴーニュ以外の全般的な話に戻りますが、Companion to Wineによると旧世界で一般的な発酵温度は18-20° C、もしくはそれ以下とのことです。要するに新世界と旧世界では発酵のさせ方が全く違うことがわかります。注意が必要なのは生産地域にかかわらず製造者の製造方針によって発酵温度は変わるということです。そのため、実際にワインをテイスティングした後にそのワインがどのように作られたかを確認する方が良いかと思います。

そもそも発酵に対するアプローチが新世界と旧世界で違うということが分かったところで発酵温度の違いによるワインの性質の変化について考えてみます。ここからは少し専門的な話になるかもしれません。まず白ワインの発酵温度は赤ワインに適用されるものより低くなります。これはもろみの温度を上げることによって果皮に存在する成分を抽出しやすくする、という作業が必要ないためです。白ワインの製造時には発酵中にもろみと果皮は接触していません。参照3によると赤ワインでは適切な温度は20-30°Cである一方で白ワインの場合は15°C以下が推奨されます。白ワインを製造する場合は、果皮から果汁が絞られた際に出てきた成分を保持することが求められます。以前ワインの香りの原因物質について書いた際に確認しましたが、これらの香りないしは味覚に影響を与える物質は揮発しやすいものが多いです。そのため発酵温度が高かったり、発酵中に放出される二酸化炭素やエタノールの量が多かったりするとどんどん揮発していきます。結果的にイチゴやバナナといった香りの構成成分とされている分子量の小さいエステルは発酵温度が低かった方がワインに保持されるため最終製品にそれに起因する特徴が発現しやすくなります。またもう一つ低温発酵の傾向としてあるのが好ましくない香り成文を発生させるバクテリアの働きを抑えられることです。特に赤ワインの場合に問題になりやすいようですが、30-40°Cに近ずくにつれて揮発性の脂肪酸やフェノールを作り出すと言われるアセトバクターが活動しやすくなります。また発酵温度が10-15°Cより高くなるとBrettanomycesと呼ばれる硫黄臭を作り出すバクテリアも活動できるようになります。ブルゴーニュでは肯定的な文脈で登場することが多いマロラクティック発酵に関しても、求められるワインのスタイルによっては好ましくありません。この現象は20°C以下の場合には抑えられるため、低温発酵の場合には理屈的にはこれが起こる可能性が低くなります。これらの酵母やバクテリアの活動に由来する香りが発生する可能性が比較的低いのが低温発酵で作られたワインの傾向的な特徴と言えます。結果的に製造されるワインは混じりっない果実の味わいが残る可能性が高いと言えます。ちなみにエステル類というのはたくさんの化学物質を含む総称ですが、特にワインの世界ではバナナ、花梨、バブルガム、パイナップル、ライチ、イチゴ、シナモンの香りを構成する物質であると考えられています。これ以上の話はその道の研究者の方にお任せして問題ないかと思います。


【参照】
1.
Robinson, J.(2015). Winemaking and temperature. In Oxford Companion to Wine, forth edition. Oxford : Oxford University Press.

2.
Robinson, J.(2015). Refrigeration. In Oxford Companion to Wine, forth edition. Oxford : Oxford University Press.

3.
Centinari, M. PH.D. An Introduction on Low Temperature Fermentation in Wine Production. PennState Extension. [online] Available at https://extension.psu.edu
Accessed on 5 August 2018.

4.
Robinson, J.(2015). Acetobacter. In Oxford Companion to Wine, forth edition. Oxford : Oxford University Press.

5.
Dekkera bruxellensis. Viticulture & Enology. UC Davis. [online] Available at http://wineserver.ucdavis.edu
Accessed on 5 August 2018.

6.
Seal, Laura.(2018). Tasting notes decoded: What is velvety wine?. Decanter. [online] Available at https://www.decanter.com/
Accessed on 5 August 2018

2018年7月10日火曜日

グルナッシュという品種について

グルナッシュは割と過小評価されがちな品種かと思います。そのため勉強する際にも少し抜け落ちがちな品種だったり為るのは自分にとってだけでしょうか。


早速、書いていきます。

【栽培関連】
品種の特徴として樹勢が強く適切に管理されなければ収量が多くなりがちです。この品種で有名な産地は共通して収穫量を低く傾向があります。適度に収量が制限された場合には色が濃くタンニンも多い複雑さに富むワインを産むとされます。熟成するためには温暖な気候が必要であるため有名産地は温暖な地域に位置することが多いです。グルナッシュに限ったことではないのですが樹齢が古い木から収穫されるブドウからは高品質なワインができるとされます。Jancisによるとこの品種からできるワインに共通する要素は甘やかな完熟した果実味だとのことです。渇水には比較的強く、また適度に水が限られた気候で良い結果を出す品種であるようです。この点については以下で更に書きます。Bush vineと呼ばれる株仕立てに特別な適性がある品種のように思われます。
※Grenacheとは別の品種であるAlicante Bouchetについては参照2に要点がまとめられています。

この品種から高級ワインが作られる最も有名な産地は南ローヌのChaâteauneuf du Papeとスペイン北東部のPrioratです。前者については年間の降水量が680mm程度で、そのほとんどが冬に降るとされるため少なくともブドウの成長期の間は乾燥した地域と言えます。また日照量も多い土地です。また畑に散りばめられたGaletと呼ばれる小石は日中に熱を蓄え、それを気温が下がる夜間に放出することでブドウの熟成を促進すると言われています。後者でもこれは同じで降水量はここでも少なく、光を反射するマイカと呼ばれる鉱石を含むとされるスレート土壌のお陰でブドウの熟成が進むとされます。ただしこの二者間ではブレンドの相手方の品種が異なります。PrioratではCariñena
主要なブレンド品種です。共通して言えることはグルナッシュが適切に熟すためには温暖な気候が必要だということです。新世界のなかではオーストラリアでもこの品種は成功していると言えます。オーストラリアでは広大な国土の中に様々な気象条件のブドウ生産地域が存在しますが、高品質のグルナッシュを産出するのはここでも温暖な地域です。Barossa ValleyやMclaren Valeが最も有名です。それぞれ成育期間中に降る降水量は160mmと180-200mmでありかなり限られています。Barossa Valleyは世界で最も樹齢が古いとされるグルナッシュが未だにワインの製造のために現役で使用されていることで有名です。

【醸造関連】
グルナッシュはGSMと呼ばれるブレンドの主役と言っても良い品種です。GSMはグルナッシュ(Grenache)、シラー(Syrah)、ムールヴェードル(Mourvedre)のことです。これらの個性や熟し方が異なる品種をブレンドすることによってワインに複雑性を持たせることがこのブレンドの狙いであるように思われる。このブレンドの起源となっているのが南ローヌのAOC Châteauneuf-du-Papeです。その中でもひときわ名前が知られている生産者としてChâteau de Beaucastelがあります。このワイナリーは世界のワイン造りに重要な影響を与えたと考えて問題ないかと思いますので、少しだけ突っ込んで書きます。ここでは上記の3種類に加え、AOCで使用が認められている合計13品種をブレンドに使用します。スペインでは上記の通りCariñenaとブレンドされるため、このワインはGSMとはスタイルがやや異なるワインとなります。オーストラリアでは、個人的には割と珍しい様に思えるのですが、この品種を使って単一品種のワインを作るケースも増えています。
除梗についての話になりますが、現行のChâteau de Beaucastelは100%の梗を取り除いた状態で発酵させてワインを作ります(2015年はシラーの梗を残した模様です)。一方でオーストラリアにおいては除梗を行わず、そのまま発酵後まで果汁と接触させるケースがあります。梗を果汁と接触させることにより梗に含まれるタンニン等の成分がワインに溶け出すとされ、結果的にワインの骨格が改善されて味わいの複雑性も増すと言われる場合もあります。オーストラリアの狙いもこのタンニンからくる骨格の強化と、さらには抽出される香り成分の増強です。一方で全ぼう発酵の場合にはワインの中にある酸量が減り、またpHが上がる傾向にあることも指摘されます。要するにこの点でもかなりワインの性格が異なってくることが考えられるわけです。このへんのところは実際にBeaucastelのワインを飲み比べて見なければわからない話なのですが。。。

【参照】
1.
Grenache. Jancisrobioson.com. [online] Available at https://www.jancisrobinson.com
Accessed on 9 July 2018.

2.
Grenacha Tintorera(es) / Alicante Bouchet. Vine to Wine Circle. [online] Available at http://www.vinetowinecircle.com
Accessed on 9 July 2018.

3.
Red Grenache. Rhone-wine.com. [online] Available at http://www.rhone-wines.com
Accessed on 9 July 2018.

4.
Terroir at Beaucastel. Chateau de Beaucastel. [online] Available at http://www.beaucastel.com
Accessed on 10 July 2018.

5.
All about Chateauneuf du Pape Guide Best Wine Character Style History. The Wine Cellar Insider. [online] Available at https://www.thewinecellarinsider.com
Accessed on 10 July 2018.

6.
Priorat. Decanter. [online] Available at https://www.decanter.com
Accessed on 10 July 2018. 

7.
Hudin, M.(2018). Priorat profile. Decanter. [online] Available at https://www.decanter.com
Accessed on 10 July 2018.

8.
Accessed on 10 July 2018.

9.
Barossa Valley. Wine Australia. [online] Available at https://www.wineaustralia.com
Accessed on 10 July 2018.

10.
McLaren Vale. Wine Australia. [online] Available at https://www.wineaustralia.com
Accessed on 10 July 2018.

11.
Robinson, J.(2015). Destemming. In Oxford Companion to Wine, forth edition. Oxford : Oxford University Press.

12.
Theron, C.(2015). Whole bunch fermentation for red wines. Wine Land. [online] Available at http://www.wineland.co.za
Accessed on 10 July 2018.

2018年7月8日日曜日

オーストラリアにおけるグルナッシュについて

グルナッシュは南ローヌのワインに多用されることで有名な品種だが、オーストラリアでも成功を収めている品種です。

今回はオーストラリアにおけるグルナッシュの個性について書いてみます。

【品種の個性】
この品種は一般的に適度なレベルの水不足にさらされなければ、また適切な収量制限がされなければ、ワインはタンニンや色素が少なくなりやすいと言われる。温暖な気候の産地で最も良い結果を生みやすく、適切に成熟させるためには成育期間が長い方がいい。結果的に糖度と度数は高くなる傾向がある。
オーストラリアでの有名産地は収量で考えれば断トツでリバーランドが、古木を利用した高品質なワインを産するとして有名な産地はマクラーレン・ヴェールやバロッサ・ヴァレーなどがある。幹が丈夫で機械による収穫は向かない一方で、ゴブレット型の仕立てには適性がある。渇水、高温や風にさらされる環境下でも比較的育ちやすい品種とされる。この品種の性質が南オーストラリアの気候と合っていたことが成功している一因かと思われる。

【歴史】
オーストラリアには19世紀前半に苗木が持ち込まれたためその歴史は長い。その点では意外だが、スペインのリオハよりも歴史が古いことになる。20世紀後半まではむしろ安定して高い収量が見込める品種として扱われていたため、高品質な品種としては認識されていなかった。1960年代までは通常のワインよりも酒精強化ワインの製造が盛んだったこともあり必然的に大規模生産されたこの品種のブドウもこの目的のために使われた。冷涼気候の産地が台頭したことと温暖な産地でも他の品種に押されたことにより栽培面積は長らく減少傾向が続いている。2017年の時点ではオーストラリアの葡萄畑全体の1%程度でしか植えられていない。頻繁に耳にする割にはかなり珍しい品種と言える。
ちなみにワインとして輸出される割合も年々減少しており、さらに2017年では輸出先は中国、イギリス、米国、カナダ等が占めており日本への輸出は相対的に少ない。

【ワインのスタイル】
単独としてもブレンドの構成要員としても使用される品種であって、これによってスタイルは異なる。また、収量制限や渇水から生じる適度な負荷、それに木の樹齢は品質を左右しうる重要な要因である。Goodeによれば、この品種は他の黒ブドウ品種と違い色が浅く洗練されたスタイルのワインを生むとされている。そのため、カベルネ・ソーヴィニョンやシラーズといった更に強烈な果実味を持つワインを生む品種とはできるワインに明確なスタイルの違いが生じる。全房を使用することにより荒々しい成分の抽出を避け、過剰なオークの影響を避けるため小樽や大樽を使用し熟成したスタイルが有効とのこと。
特にマクラーレン・ヴェールやバロッサ・ヴァレーといった地域ではGSMと呼ばれるブレントで作られることが多い。これはグルナッシュのほかシラーズとマタロ(ムルヴェードル)を使用したブレンドを指す。
グルナッシュに限ったことではないが、バロッサ・ヴァレーでできるワインに関しては古木の果実から作られたワインのために使われる特別な表記用語がある。詳しくは参照4を確認して下さい。この樹齢という概念もオーストラリアでは非常に重要な要素であると思います。1980年代から古木が抜かれるという悲劇が起きたわけですが、今でも古いものでは125年も樹齢を重ねだブドウの木が商業的にワインの製造のために使われています。ここまで古いブドウの木は世界的にも珍しく、バロッサ・バレーのワインの名声を高める所以の一つである。特にCirillo Estateの樹齢125年以上の木から作られる単一のグルナッシュはグルナッシュ✖️古木のスタイルの1つの最骨頂かと思う。

【参照】
1. 
Robinson, J.(2015). Grenache Noir. In Oxford Companion to Wine, forth edition. Oxford : Oxford University Press.

2. 
Accessed on 8 July 2018. 

3.
Variety snapshot 2017 Grenache. Wine Australia. [online] Available at https://www.wineaustralia.com
Accessed on 8 July 2018.

4.
Barossa Old Vine Charter. Barossa Australia. [online] Available at https://www.barossa.com
Accessed on 8 July 2018.

5.
Accessed on 8 July 2018.

6.
Jenkins, L.(2015). The Proust Q&A Marco Cirillo. The drink Business. [online] Available at https://www.thedrinksbusiness.com
Accessed on 8 July 2018.

2018年1月2日火曜日

発酵温度について

前回、TrimbachのGewurztraminerをテイスティングしました。
テイスティングコメントはこちらです。

発酵温度について考えるようになったきっかけは単純でした。

上記のテイスティングの際に、Gewuztraminerの品種の個性として頻繁に挙げられるライチ、バラ、ジンジャーといった要素を嗅ぎとることができなかったのです。

なぜ香りを取れなかったのか。。確証はありませんが風邪ではないことは確かな様でした。

早速本題に入ります。

発酵の際のマストの温度はワインの個性を決定づける重要な項目です。
出来上がるワインのスタイルは発酵の温度によって大きく影響を受けます。

発酵温度が与える影響として、個人的には以下がポイントだと思います。

【発酵温度が与える影響】
1. 酵母の発酵を促進・制限する。白ワインの場合は概ね10〜20℃程度が一般的。
 (高温・低温過ぎると酵母は働けない)
2. ワインに発現する第1アロマ、第2アロマの量が変わる
3. タンニンや色素等が果皮から抽出される量やスピードが変わる。


上記のポイントの中でも白ワインに関しては1と2が重要です。

そして今回のテイスティングでの経験を踏まえて特に考えるようになったのが2のポイントです。


まず、一般的な発酵温度の影響について考えてみましょう。
参照1はWine Follyの記事です。「3. Hot Fermentation vs. Cool Fermentation」の項は大変参考になります。発酵以外のワインを作る上での重要なポイントについても書かれています。一読の価値ありです。


【要点】
低温発酵は主に白ワインの製造過程で用いられる。
温度が6〜10℃である場合、白ワインの繊細な香りが残る可能性が高くなる。


香りの原因物質は分子量が小さく揮発しやすい物質です。これらは水と同じように高温ではさらに揮発しやすくなります。ちなみにこのぶどう由来の香りが第一アロマと呼ばれます。
また高温の場合、特定の化学的な反応が進み易くなるため、果実から抽出された香り以外の香り成分が生成されます。言い換えれば、これが第二のアロマの発生です。


では続いて、今回のテイスティングしたワインであるアルザス地方について考えてみましょう。

参照2はアルザスワイン一般についての情報です
「The secrets」の部分の要約ですが、
1. ニューワールドの低温発酵の時の温度は10-12℃が一般的だが、これはバナナのような香りに繋がる。
2. このような果実味は高品質のアルザスワインのものとは関連しない。

どうも発酵温度が高いことを匂わせる表現です。


参照3はTrimbachの旗艦ブランドであるClos Sainte Huneについての情報です。
このシリーズはリースリングしかないはずですが、発酵温度は20℃です。Gewurztraminerでも同様な可能性はあります。

実際に少なくともリースリングに用いられる発酵温度は少し高めであることがわかります。Trimbachはリースリングを得意とするメーカーです。Gewurztraminerでも同じ温度帯で発酵させている可能性はあるかと思います。


ここで私なりの考察をまとめます。

【考察】
1. おそらくアルザスの発酵温度は全体的に高iいのではないか。
2. 結果的にそのワインは第1アロマが抑えられ、ニューワールドのワインとは違いが生じるのではないか。


長々書きましたが、以上です。

[Reference]
1. 
Puckette, M.(2014). How Wine Making Processes Affect Wine. Wine Folly. [online] Available at http://winefolly.com/. Accessed 2 Jan 2018.
2.
Making Alsace white wine. Wolfberger. [online] Aailable at https://www.wolfberger.com. Accessed 2 Jan 2018.
3. 17 Juin All about Clos Sainte Hune. Trimbach. [online] Available at https://www.trimbach.fr/. Accessed 2 Jan 2018